オーストリアの〈ハブリング²〉は、独立系マニュファクチュールとして、少量生産ながら、常に時計愛好家の審美眼を刺激し、技術的探求心を掻き立てるモデルを世に送り出し続けています。この「クロノ フェリックス・パーペチュアル」は、まさにそれを体現する傑作と言えるでしょう。搭載される自社製ムーブメント「A11CP」は、モノプッシャークロノグラフとパーペチュアルカレンダーという2つの複雑機構を、コンパクトなケースに収め結実させた意欲作です。これは、独立系マニュファクチュールとしてハブリング²が長年培ってきた技術力、そして妥協なきクラフトマンシップの結晶に他なりません。
「段差ベゼル」:古き良き時代へのオマージュと現代的解釈
文字盤は、そのミニマルで洗練されたデザインによって、機能美の完璧なバランスを保っています。必要最低限の表示のみに抑えることで、ノーブルな印象を与えつつ、ロジウムメッキのアラビア数字とブラックダイヤルがコントラストを生み出し、優れた視認性を確保しています。特筆すべきは、ムーンフェイズ表示と一体化された分積算計です。これにより、30分までのクロノグラフ計測とムーンフェイズ表示を効率的に統合し、限られた文字盤スペースを有効活用しています。
さらに注目すべきは、ヴィンテージウォッチを彷彿とさせる「段差ベゼル(stepped bezel)」の採用です。このディテールは、古き良き時代の時計へのオマージュでありながら、単なる模倣に留まりません。ポリッシュ仕上げと側面をブラッシュ仕上げにしたベゼルは、光の反射と質感のコントラストを生み出し、デザインとプロポーションの両方で過去への敬意を表しています。このベゼルデザインは、ケース全体の奥行き感を強調し、38.5mmという小径ケースに視覚的な豊かさをもたらしています。
パーペチュアルカレンダーの追加により、曜日、日付、月、閏年、ムーンフェイズのサブダイヤルを置くことになりますが、その配置は極めてバランスが良く、一段沈んだカウンターが奥行きを与え、各表示の独立性を保ちながらも、全体として調和の取れた視認性を実現しています。ポリッシュ仕上げのスチール製リーフ針は、光を捉え、視認性を高めると同時に、文字盤全体の洗練された雰囲気を強調しています。
キャリバー A11CPが示す「小型化」の技術的偉業
ケース径わずか38.5mm、厚さ12.0mmという制約の中に、これらの複雑機構を内包させることは、一般的な量産メーカーでさえ困難を極める技術的挑戦であり、独立系メーカーにとってはまさに類まれな偉業と評価されるべきです。この小型化は、単にサイズを小さくするだけでなく、限られた空間内で各部品の配置、動力伝達の効率性、そしてクロノグラフとパーペチュアルカレンダー間の相互作用を緻密に設計する必要がありました。また、通常のデュアルプッシャーではなく、モノプッシャークロノグラフを選択したことは、ケースサイドのプッシャー数を減らし、よりシンプルなデザインと操作性を両立させました。
カレンダーモジュールには、デュボア・デプラ社製のものを搭載。これは、既存の信頼性の高いモジュールをベースにしつつ、ハブリング²独自のクロノグラフムーブメントを統合するという、効率的かつ戦略的なアプローチです。A11CPは、自社ムーブメントを開発する上で参考にしたETA 7750の構造からの大幅な進化を遂げており、自社で組み立てが行われています。さらに、カール・ハース社製ヒゲゼンマイを備えた非磁性脱進機やKIFショックアブソーバーの採用など、実用性を高めるための細部にわたるこだわりが、このムーブメントの信頼性と堅牢性をさらに高めています。
Chrono Felix Perpetual
ムーブメント: 手巻き(自社製キャリバー A11CP )
パワーリザーブ: 約48時間
振動数 : 28,800 VpH
ケース素材:ステンレススティール
ケースサイズ: 38.5mm(径)、12.0mm(厚)
防水性能: 3気圧
価格:4,730,000 円(税込) ※2025年6月現在