チャペック「Antarctique Sashiko Isetan Limited Edition」～宿る日本の美～

06/16/2025 06/17/2025

shellman

時計に宿る「ジャパンブルー」：藍と刺し子のタイムピースが紡ぐ日本の美

限定45本という希少なタイムピース、CZAPEK 「Antarctique Sashiko Isetan Limited Edition」。この時計は、日本の伝統文化である「刺し子」と「藍染め」の美意識を、スイスの独立時計メーカー〈チャペック〉の卓越した技術と融合させた、まさに「時を刻む民藝品」と呼ぶにふさわしい逸品です。

チャペックと日本の民藝との出会い：伝統と革新の融合

スイスの独立時計メーカー〈チャペック〉は、現代において伝統と革新を融合させることで知られています。その哲学は、今回の「Antarctique Sashiko Isetan Limited Edition」において、まさに極まったといえるでしょう。〈チャペック〉は日本の伝統文化、特に「刺し子」と「藍染め」の持つ美意識に着目しました。刺し子の繊細なパターンは、文字盤のテクスチャーに再構成され、藍の色は深みと透明感を併せ持つ仕上げで表現されました。この作品は、ただのコラボレーションではありません。時代も場所も超え、文化と時間の「架け橋」として誕生した、真に意味のあるタイムピースです。Czapekの高度な製造技術と日本の伝統美が溶け合うことで、腕元に宿る時間がまるで詩のように語り出します。

日本の伝統が世界へ羽ばたく

このモデルの文字盤に採用されたのが、庄内刺し子からインスピレーションを得た「刺し子」模様です。庄内刺し子とは、山形県の庄内地方に古くから伝わる伝統的な日本の民藝品です。その特徴は、米刺しや柿の花など、幾何学的で力強い文様が多く見られることです。これらは単なる装飾ではなく、日々の暮らしに根ざした意味合いが込められており、地域の風土と人々の知恵が息づいています。素朴でありながらも、その堅牢な美しさは、現代においても多くの人々を惹きつけてやみません。

なぜ庄内刺し子なのか？

画像は〈チャペック〉のCEOザビエル・デ・ロックモーレル氏が山形へ訪れた時のもの。ザビエル氏が庄内刺し子に注目したのは、その独特の立体感と視覚的な奥行き、そして手仕事ならではの温かみが、時計の文字盤に新たな表現をもたらすと感じたからでしょう。通常のギョーシェ彫りとは異なる、和の美意識が凝縮されたそのテクスチャーは、時計に唯一無二の個性を与えています。

実際にこの限定モデルの文字盤を見ると、まるで本物の刺し子が施されているかのような、繊細かつ力強い模様が浮かび上がります。光の当たり方によって表情を変えるその文字盤は、所有する喜びを一層高めます。

藍染め：古来より日本に根差す「ジャパンブルー」の文化

ダイヤルカラーに採用したのは、「ジャパンブルー＝藍色」。藍色という色は、単なる色彩を超え、日本の「文化」であり「感性」そのものです。日本に古くから伝わる藍染めは、天然染料を用いた染色技法で、古代から現代に至るまで人々の暮らしに深く根ざしてきました。その色調は、淡い青から黒に近い濃紺まで実に奥深く、光の加減や時間の経過によって微細に表情を変えるのが特徴です。明治時代に来日した外国人によって「ジャパンブルー」と称されたこの色は、日本独自の美として国際的にも高く評価されています。

2025年：「民藝」100年と時を刻む美

2025年は、柳宗悦が「民藝（民衆的工藝）」という概念を提唱してからちょうど100年という記念すべき年です。この100年間、名もなき職人たちの手によって生み出された「用の美」は、日本人の美意識に深く根ざしてきました。日々の暮らしの中にこそ本物の美があるという民藝の思想は、現代のプロダクトにも大きな影響を与え続けています。

このチャペックの時計もまた、その民藝の系譜に連なるものと言えるでしょう。高度な技術によって製作されながらも、その根底には民藝の精神が息づいています。実用と芸術、機能と美しさ、そして過去と未来。そのすべてを内包しながら、「時を刻む民藝品」がここに誕生したのです。