「独立時計師」は、文字通り企業には属さず、個人や少人数で自らの理想とする時計作りをしている方々の総称です。その姿は、大量生産で消費される時計とは異なる、一つ一つ職人の手によって丁寧に手作りされた「作品」であることを想起させます。独自の発想や理想に沿ってモノ作りを行う独立時計師の作品から、銀座三越本館6階シェルマンでお取り扱いしている三組に焦点をあて、2月24日(水)〜3月16日(火)までご紹介いたします。
<KUDOKE>(クドケ)
ドイツ人のステファン・クドケ氏が、2007年ドイツ・フランクフルトでスタートさせたブランド。某有名ブランドの修理業務などを担当し独立したクドケ氏が作成する時計の最大の特徴は手仕事へのこだわりで、その1つにスケルトン時計に施された美しいエングレービング(彫金)が挙げられます。また、2018年からは自社製ムーブメントを開発、針や時計裏側の仕上げも手仕事にこだわった新シリーズ「HAND Werk 」を発表しています。手仕事へのこだわりについてクドケ 氏は「機械を使っては他と同じになってしまう、独立時計師として誇れることは、自分にしかできない時計を自分の手で作ること」と述べています。このような時計作りへの真摯な姿勢が評価され、2019年には「HAND Werk」第2弾となる「クドケ2」によりAHCI(独立時計師協会 通称アカデミー)の準会員へ選出。さらに毎年11月に開催されるスイスのジュネーヴで開催されるジュネーヴ時計グランプリ(GPHG)では“小さな針”賞を受賞しました。今後ますます注目される時計師です。
<Habring2>(ハブリング2)
2004年オーストラリアでリチャードとマリアのハブリング夫妻によって創業。二人の出会いは、ドイツの古都ドレスデンから乗った列車の中でというロマンチックなものでした。二人で共に時計を製作している意味を込めハブリング「2」と名付けられました。
アンティーク時計の修復作業にも関わり、スイスやドイツの某有名メーカーでムーブメント開発や技術顧問を務めていたリチャード氏が作り出す時計は、シンプルながらもバランスのとれたデザインに、特殊機構を搭載したモデルが多いことが特徴です。例えば秒針が1秒毎にジャンプする“ジャンピング セコンド”機構を搭載したモデルなどがあります。ハブリング2の技術力は世界的に高く評価されており、<クドケ>でもご紹介したGPHGの部門賞を4度も受賞しています。また、先にご紹介したクドケ氏とハブリング氏は友人同士でもあり、クドケが2018年に発表した自社製ムーブメント「キャリバー1」の開発でもアドバイスしています。自身の作る時計についてリチャード氏は「時計である以上、日常使いに耐える信頼性は絶対に必要であり、日常使いされることを前提に作っている」と語っています。今後、彼がどんな複雑機構を作り出そうとするのか、ますます目が離せません。
<LUNDIS BLEUS>(ランディ・ブルー)
2016年、スイス、ラ・ショー=ド=フォンにて、時計学校の友人同士であったヨハン・ストーニ氏(写真右)とバスティアン・ヴィリオメネ氏(写真左)の二人によって創業。「ランディ・ブルー」の意味は“月曜からゆっくり・・・”。その昔、時計師は日曜日に酒を飲んだくれ、月曜日は二日酔いになっている、自分たちもそんな生き方がしたい、という思いから名付けられました。自らのペースで仕事をおこなう時計師としての独立性と自由への思いが込められています。
そんな彼らが作り出す時計の特徴は、エナメルや貴石、貝などを用いた美しい文字盤です。
エナメルは、日本では“七宝焼き“とも呼ばれ、土台となる金属板に釉薬を塗り焼き上げる工程を経て作られますが、10枚焼いて数枚使えるかどうかという繊細かつ手間のかかるもの。加えて、彼らの作り出すエナメル文字盤は、様々なブルーの顔料を混ぜ合わせてまるで宝石のように仕上げたものや、赤や黄色などの鮮やかな色合いが特徴です。
バスティアン氏は、「自分が画家であったならば肖像画家になる。なぜなら同じ肖像は二度と描かないから」と語っています。わずかなバランスで表情の変わるエナメルや、使われる断面によって異なる表情を見せる、貴石を文字盤に用いることは、まさに一点一点異なる時計の“肖像”を作り出すのにうってつけと言えるでしょう。
作り上げる時計も三者三様ですが、それこそが独立時計師が古き時計作りの伝統を引き継ぐのと同時に、アーティストでもある証でもあります。いずれの時計師の作る時計も年間生産はわずかで稀少な物となります。ぜひその個性を店頭でお楽しみいただき、運命の出会いとなれば幸いです。