(オランダ・フラネケルにある「アイゼ・アイジンガー プラネタリウム」の、コバルトブルーと木目の天井に描かれた太陽系の文字盤。そこからカメラが静かに引いていくと、その天井宇宙と同じ筆の揺らぎを持つ、CVDKの腕時計『プラネタリウム アイゼ・アイジンガー』の油彩文字盤が現れます。さらに画面が切り替わり、名古屋市科学館のシンボルである巨大な球体ドームスクリーンのビジュアルへと溶け込んでいく、時空とスケールを超えたドラマチックなオープニング動画からスタートします)

皆様、こんにちは。シェルマンでございます。

秋の気配が少しずつ深まり、夜空の星たちが一際クリアに輝く季節となってまいりました。 10月の特別なイベントに向けた知的な時間旅行、本日は折り返し地点となる、第5話です。

さて、本日お届けする旅の水先案内星は、太陽系の中でも極めて個性的で、へそ曲がりな星として知られる「天王星(Uranus)」です。

この天王星、何がそんなに個性的かと言いますと、他の惑星たちが独楽(こま)のようにほぼ垂直に自転しているのに対し、天王星だけは、自転軸が約98度も傾いており、まるで「横倒しになって、ゴロゴロと転がるように」太陽の周りを回っているのです。そして、この個性的な星を1781年に発見したウィリアム・ハーシェルという人物。彼はもともと、プロのお抱え天文台に属するエリート天文学者ではなく、本職はオーボエ奏者を務める「音楽家」であり、夜な夜な自宅の庭で手製の望遠鏡を覗き続けていた、純粋な「アマチュア」だったのです。

というわけで、本日の主役もまた、時計の歴史、そして天文学の歴史を劇的に変えてしまった、オランダの「偉大なる、へそ曲がりなアマチュア」のお話です。

▍人々の不安を安らぎに変えるため、居間の天井に「宇宙」を創り上げた男

タイムスリップする先は、18世紀後半、1774年のオランダ。北部のフリースラント州にあるフラネケルという、のどかな田舎町です。

この年、この町はある「恐怖」に支配されていました。当時の天文学の予測で、「近いうちに水星、金星、地球、火星、そして月が、一直線上に並ぶ珍しい配置(合)が起きる」ということが分かると、あるお騒がせなパンフレットが世に出回ったのです。「惑星たちが一直線に並ぶと、互いの引力が引き合って軌道が崩れ、地球は太陽に吸い込まれて滅亡する!」今聞けばデマですが、当時は大真面目に信じられ、町中の人々が「世界が終わる……!」と、大パニックに陥ってしまいました。

現代でも、出所のわからない不確かな情報やデマの流布によって、社会全体が不安に包まれてしまうことがありますよね。実は18世紀のオランダでも、まったく同じような状況が起きていたのです。

そんな人々の大パニックを目の当たりにして、「言葉や理屈による説得ではなく、目に見える『圧倒的な調和』を示すことで、みんなの心を安心させたい」と立ち上がった一人の男がいました。男の名は、アイゼ・アイジンガー。本職は、ウールを機械で整える「羊毛梳き職人」でしたが、独学で数学と天文学を極めた、きわめて知的なアマチュア天文学者でした。アイジンガーは、暗いデマに怯える近所の人々や子供たちの心を救うため、宇宙の本当の美しさを、彼らに寄り添う形で示そうと決意します。

「よし、我が家の居間の天井に、本物の太陽系をそっくりそのまま作って見せよう」

アイジンガーは、1774年から1781年までの丸7年間、毎日のきつい肉体労働を終えた後、自宅の居間の天井裏に潜り込みました。 そして、たった一人の手で、1万本にも及ぶ歯車用の鉄釘を天井の板に打ち込み、巨大な木製の歯車たちを狂いなく噛み合わせ、リアルタイムで正確に動き続ける太陽系模型(プラネタリウム)を完成させてしまったのです。

中央に輝く太陽の周りを、水星から土星までの6つの惑星が、本物の宇宙と全く同じ公転周期で回っているこの設備。水星は約88日、地球は365日、そして最も外側の土星は、なんと「29年半」かけて、天井をじっくりと一周します。 その天体の動きを司る動力は重たい鉄製の錘であり、第2話でご紹介したあのクリスティアン・ホイヘンスが発明した「振り子時計」の原理(等時性)を応用したペンデュラムによって、きわめて正確に調速されていました。

天井を見上げれば、そこには地球も、金星も、土星も、完璧な調和を保って、静かに、美しく回り続けている。 それを見た人々は、どれほど心が安らぎ、宇宙の壮大な時間に感嘆したことでしょうか。

このアイジンガーの「天井の宇宙」は、のちにオランダ国王にその価値を認められて国の管理下となり、なんと完成から240年以上が経過した現在も、幾度もの丁寧なメンテナンスを経ながら大切に維持され、当時と同じ振り子のチクタクという音を立てて、今なお現役でリアルタイムに動き続けています。 そして2023年、この個人の居間は正式に、ユネスコの世界遺産に認定されたのです。

アイジンガーがその生涯をかけて人々に伝えたかったもの。 それは、私たちをせき立てるような日々の「実用的な時間」ではなく、無限に続く、大いなる宇宙の時間(イーオン)を感じることで得られる、「心の安らぎと、知的な豊かさ」だったのですね。

 

 

▍世界最古(天井)から、世界最大(ドーム)、そして世界最小(腕時計)へ

さて、ここからがエモーショナルな「歴史の奇跡」のお話です。「オランダの田舎町の、世界遺産になった天井プラネタリウム。素晴らしい話だけれど、日本の、それも私たちの日常とどう繋がっているの?」 そう思われますよね。

実は、このアイゼ・アイジンガーが作った「世界最古のプラネタリウム」の、きわめて精巧な木目調の「実物大レプリカ」が常設展示されている場所が日本に存在します。その場所こそ、今回の私たちのイベント会場である「名古屋栄三越」からほど近い場所に位置する、あの「名古屋市科学館」なのです!

名古屋市科学館といえば、内径35メートルという、ギネス記録にも認定された「世界最大級のプラネタリウムドーム」を擁する、日本が、そして世界が誇る星空の聖地です。その最新の光学技術がきらめくドームのすぐ近くに、240年以上前のオランダで、一人の職人が手仕事で作り上げた「最古のプラネタリウムのレプリカ」が、静かに佇んでいる。

この「最古」と「最大」が出会う奇跡の場所に、数年前、オランダからある一人の男が訪れました。その男こそ、オランダが世界に誇る天文時計メゾン『クリスティアン・ヴァン・デル・クラーウ(CVDK)』の現CEOであり、天才時計師である、ピム・コースラグ氏だったのです。

科学館の天文展示室に入り、自国の偉大なる先達アイジンガーのレプリカと対面したピム氏。さらに、目の前にそびえ立つ、まるでスター・ウォーズの『デス・スター』を思わせるような、世界最大級のプラネタリウムドームの、圧倒的な球体の美しさに、ピム氏は言葉を失うほどの衝撃を受けました。

「世界最古のアイジンガー、そして世界最大級の名古屋のドーム。ならば、私たちの誇る『世界最小の機械式プラネタリウム』の意匠(デザイン)をこの地に捧げる形で再解釈し、特別なモデルを誕生させよう」

そうして、光学式プラネタリウム誕生100周年という記念すべき節目に、ピム氏の手によって誕生した奇跡のコラボレーションモデルこそ、『CVDK プラネタリウム 名古屋市科学館モデル』なのです。

▍文字盤に宿る、圧倒的な「球体ドーム」のエングレービング

この世界限定わずか6本という、息を呑むほどに美しいタイムピース。このモデルを唯一無二の存在にしているのが、そのシルバー925製の文字盤に施された彫金細工です。 この彫金を担当したのは、時計の聖地ジュネーヴを拠点に世界的な活躍を続けるオランダ人アトリエ・エングレーバー、キース・エンゲルバーツ(Kees Engelbarts)氏。 アイジンガー、ホイヘンス、そしてピム氏からキース氏にいたるまで、ここでも「オランダの知と美の血脈」が脈々と一本の線で繋がっていることに、深い知のロマンを感じずにはいられません。

キース氏は、一枚の文字盤を製作するのに丸1ヶ月もの時間をかけて、顕微鏡を覗き込みながらあの名古屋市科学館のシンボルである「球体ドーム」の姿を、ハンドエングレービングによって緻密に手彫りしていくのです。 地球儀を想起させるクリアな経緯線、そして無数の微細な長方形のパターンが、丁寧に磨き上げられたシルバーの表面に立体的に浮かび上がるその姿は、もはや装飾という言葉を遥かに超えた、工芸美術の結晶です。

そして、その文字盤の6時位置に静かに佇むのが、CVDKの代名詞である、世界最小の機械式プラネタリウム。 直径わずか40ミリの小さなケースの中で、太陽を中心に、水星、金星、地球、火星、木星、そして土星までの6つの惑星が、本物の宇宙と全く同じ速度で、リアルタイムに公転しています。さらに、信じられないような美しいエピソードがあります。

この世界に6本しか存在しない超希少なモデル。その製品開発の土台となった、世界でたった一つの試作機である「プロトタイプ0号機(シリアルNo.0)」。 ピム氏とCVDK社は、このプライスレスな0号機を、日本のお客様への心からの敬意を込めて、名古屋市科学館へと公式に寄贈されたのです。今でも、名古屋市科学館の天文展示室を訪れると、あの「世界最古のアイジンガーのレプリカ」のすぐ隣に、現代の天才ピム氏が作った「世界最小の名古屋市科学館モデル」の0号機が、誇らしげに並んで展示されています。

オランダの居間の天井(世界最古)から、日本の名古屋の巨大な星空(世界最大)、そして腕元の美しい腕時計(世界最小)へ。 数百年という時間、そして何万キロという距離を超えて、人間の「宇宙への純粋な憧れ」という情熱のバトンが、完璧な一つの円環を描いて、今、私たちの目の前に繋がっているのです。

▍ただ歴史をなぞるのではない。私たちは今、その歴史の一部になっている

皆様、10月11日(日)に開催される「名古屋栄三越」でのCVDK特別イベント。そこで私たちが、この『名古屋市科学館モデル』や、アイジンガーの天井をモチーフに作られた『プラネタリウム アイゼ・アイジンガー』の実物を手に取り、ルーペで覗き込むとき。それは、単に「高価で複雑なインディペンデントの時計を見る」というだけの時間ではありません。

1781年に、町の人々をデマから救い、宇宙の美しさを伝えようと天井裏で釘を打ち続けたアイジンガーの、あの温かな情熱。その魂に震え、世界最小の小宇宙を完成させたピム・コースラグ氏の、時計師としての執念。 そして、オランダから日本へと手渡された、奇跡のような「星空のバトン」。その脈々と受け継がれてきた壮大な歴史の流れのなかに、「いま、美しさを感じ、それを選ぶ人間」として、皆様ご自身も、確かにその歴史の当事者として関わり、新しい1ページを紡いでいるということなのです。

この二度と戻らない、奇跡のような「時と宇宙の巡り合わせ」に、心からの感謝を込めて。 10月、皆様と会場でお会いできることが、本当に楽しみでなりません。

さて、ここで皆様から、「その星空のバトンを受け取った、ピム・コースラグさんって、一体どんな人物なの?」「そんなすごい天文時計を、一話で終わらせてしまうのは、あまりに勿体ない!」という、大変ありがたく、そして鋭いお声をいただきました。

そのご心配、まったくその通りです。 実はピムさんという男、語り出すとそれこそブログ2話分、いや3話分になってしまうほど、時計づくりに対して凄まじい、エキセントリックなまでの情熱を持った天才なのです。

そこで、ピムさんという天才時計師の驚くべき歩みと、彼が今回の来日のためにオランダから抱えて持ってくる、2026年最新作『ヴィーナス(金星)』の文字盤の上に隠された「宇宙の数学的調和(黄金比)」のミステリーは、満を持して、次回の第6話でたっぷりとお届けしたいと思います。

次回、【第6話】美と愛の女神の降臨 ── 天才時計師ピム・コースラグと、黄金比を宿す最新作『ヴィーナス』。

美と愛の女神の名を冠する、太陽系で最も輝かしい星「金星(Venus)」の、ちょっと信じられないほどロマンチックなお話をマクラに、ピム氏の情熱の真髄に迫ります。

どうぞ、お楽しみに。

シェルマンでした。

シェルマンオフィシャルサイト

1971年にアンティークショップとして創業したシェルマンは、パテック・フィリップをはじめとしたアンティークウォッチの名品の数々や美術工芸品ともいえるアンティークジュエリーを中心に展開してまいりました。
そして現在は、大手メゾンに属さず時計づくりに励む独立時計師のユニークな作品、独自の信念やこだわりを持って製作される現行ブランドの時計、複雑機構を搭載したクォーツ式のオリジナルウォッチの開発・製作など、アンティークの枠を越え、時代や流行を越えて受け継がれる名品をコンセプトに、幅広いジャンルの作品を取り扱っています