時計を愛する方々にとって、「究極の一本」とはどのような姿をしているでしょうか。複雑な機構を誇るコンプリケーションか、あるいは最新素材を纏ったアヴァンギャルドな造形か。今回ご紹介するのは、そのどちらでもありません。
独立時計師やスモールメゾンの時計は、「歴史の真髄を読み解く、卓越した知見と技(Savoir-faire)」「指先から生み出される、至高の装飾美(Métiers d’Art)」「美術工芸品としての気品(Objet d’Art)」の3要素が三位一体となった存在であることが多い。
クリスチャン・ラス(Christian Lass)の時計には、この定義のすべてが、その端正な佇まいの裏側に凝縮されています。

歴史の真髄を読み解く、卓越した知見と技(Savoir-faire)
クリスチャン・ラスという名前を聞いて、彼の「異例の経歴」に触れないわけにはいきません。彼はかつて、パテック フィリップ・ミュージアムで約10年間にわたり修復責任者を務めていました。「100年前、200年前の天才たちが何を考え、どこに魂を込めたのか。私は毎日、彼らと対話していました」
その対話から生まれたのが、代表作『30CP』に搭載された「スフェリカル・ヘアスプリング・アジャスター」です。かつてアブラアン=ルイ・ブレゲが航海用精密時計のために考案した機構を、ラス氏は腕時計サイズにまで再設計しました。ルビーの小さな球体を支点とし、ヒゲゼンマイの姿勢を全方位から微調整する——。過去の偉人の知恵を読み解き、現代に蘇らせるこの圧倒的な知見と技(Savoir-faire)こそが、彼の時計作りの核となっています。

指先から生み出される、至高の装飾美(Métiers d’Art)
この芸術的側面を一手に引き受けているのが、彼の最良のパートナー(妻)であり、世界屈指のエングレーバー(彫金師)であるHannelore Lass(ハンネロア・ラス)氏です。
ドイツ出身の彼女は、独立時計師の鬼才ヴィアネイ・ハルター氏の工房で専属彫金師を務め、さらにはパテック フィリップやヴァン クリーフ&アーペルといった名門メゾンで一点物の装飾を任されてきた、業界でも稀有な職人です。彼女が伝統的なビュラン(彫刻刀)を使い、顕微鏡越しにコンマ数ミリの精度で刻み出す数字や装飾には、機械彫りでは決して到達できない生命感が宿っています。
美術工芸品としての気品(Objet d’Art)
彼の師匠であるフィリップ・デュフォー氏、そしてパテック フィリップという最高峰のメゾンがその「手」を認めた理由は、ルーペを通したときにのみ見える圧倒的な熱量にあります。伝統的な工具を使い、金属を極限まで磨き上げるその工程に、現代的な効率化の余地はありません。気の遠くなるような手間をかけ、一切の妥協なく施された仕上げは、もはや単なる「部品」ではなく、職人の魂が宿る芸術作品としての輝きを放ちます。
また、修復師としてのキャリアを持つラス氏が最も大切にしているのは、「100年後、200年後の時計師が、私の時計を修理できるか」という点です。そのため、彼はシリコンなどの新素材に頼らず、真鍮やスティールといった、数世紀にわたって信頼されてきた素材を好んで使用しています。
一見すると極めてシンプルなその姿には、流行に左右されるラグジュアリーではなく、時代を超越する美術工芸品としての気品(Objet d’Art)が備わっています。そこには、まさに凛とした美しさが凝縮されており、次世代へと受け継がれるべき価値が刻まれているのです。
私たちシェルマンが、彼の日本におけるパートナーであることを誇りに思う理由。それは、彼が「時計の未来」を作るのではなく、「時計の正統」を現代に繋ぎ止めようとしているからです。
派手な宣伝も、過剰な装飾もありません。ただ、刻まれる時の精度と、職人の意志が宿る圧倒的な美しさ。世界が認めたその「手」から生まれる奇跡。ご興味がある方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。
【お問い合わせ先】
日本橋三越本店 本館6階 ウォッチギャラリー/シェルマン TEL: 03-6225-2134
伊勢丹新宿店 本館5階 ウォッチ TEL: 03-3352-1111 大代表
銀座三越 本館6階 / シェルマン TEL:03-6228-6911
【30CP 基本スペック】
ムーブメント:自社製手巻き(Calibre 30CP)
振動数:18,000 振動/時
パワーリザーブ:約42時間
ケース径:38.0 mm
ケース厚:11.5 mm
ケース素材:18Kゴールド(レッド、イエロー、ホワイトから選択可能)
防水性能:3気圧防水
世界限定 50本

クリスチャン・ラス(Christian Lass)とは
クリスチャン・ラスは、時計製造の歴史と未来を繋ぐデンマーク出身の独立時計師です。彼の経歴で最も特筆すべきは、ジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムで約10年間にわたり筆頭修復師を務めたという点にあります。16世紀から現代に至るまでの歴史的傑作をその手で蘇らせてきた経験は、彼の時計作りに唯一無二の深みと説得力を与えています。
ラス氏の哲学は「数百年後も修理可能であり、価値を保ち続けること」にあります。そのため、ムーブメントの地板やブリッジには伝統的なジャーマンシルバーを採用し、旋盤を用いたパーツ製作から繊細な面取りに至るまで、その多くを自らの手作業で行っています。
年間わずか数本しか製作されない極めて希少な芸術品です。歴史の守り人から創造主へと転身したクリスチャン・ラスは、現代の時計界において最も純粋な伝統を継承する一人と言えます。
