時計史という名の長い回廊を歩くと、時折、既存の枠組みを根底から揺るがそうとした「異端の美学」に出会うことがあります。

1970年代――。それは時計界にとって、まさに激動の時代でした。クォーツ技術の台頭という未曾有の荒波の中で、スイスの伝統的な機械式時計は、生き残りをかけた新たな表現を模索していました。その混沌とした熱狂の中から生まれ、彗星のごとく現れたのが、独立系ブランド「AMIDA(アミダ)」です。

今回ご紹介するのは、約半世紀の時を経て現代に鮮烈なカムバックを果たした、彼らのアイコンピース「Digitrend(デジトレンド)」。それは単なる過去の焼き直しではありません。当時の人々が夢見た「輝ける未来」を、現代の技術で再解釈した、知的な冒険譚なのです。

 

宇宙への憧憬と、1970年代という魔法

1970年代のプロダクトデザインを語る上で欠かせないのが、「スペースエイジ」への憧れです。アポロ計画の熱狂が冷めやらぬ中、あらゆるデザイナーが流線型やプラスチック、そして未知のフォルムに魅了されていました。

「デジトレンド」のケースを指先でなぞれば、その特異なフォルムに驚かされるはずです。ステンレススチールで作られたその姿は、時計というよりは、当時のコンセプトカー、あるいはSF映画に登場する宇宙船のようです。

この独特の形状は、機能美の追求から生まれました。ハンドルを握ったドライバーが、腕を傾けることなく視界の隅で時刻を読み取れるように設計された「ドライバーズ・ウォッチ」。アミダは、その実用的な課題に対して、極めて前衛的なデザインをもって回答したのです。

 

プリズムが描く、アナログとデジタルの交差点

この時計の真骨頂は、その表示システムに隠された知的なギミックにあります。

文字盤も針も存在しない、ただ黒い窓に浮かび上がる数字。一見すると初期のLEDデジタル時計のように見えますが、その内部で鼓動しているのは、紛れもない「機械式の心臓」です。

ムーブメントはケース内で水平に配置されていますが、時刻を刻むディスクの数字は、そのままでは上を向いています。アミダはここに、潜水艦の潜望鏡(ペリスコープ)に用いられる反射原理を導入しました。

現代の復刻版では、オリジナルで使われていたプラスチック製プリズムを、高精度な「サファイアクリスタル・プリズム」へとアップグレード。水平に回転するディスクの数字を、90度屈折させて前面に投影する「L.R.D.Light Reflecting Display)」システムにより、数字がレンズの中で浮遊しているかのような、神秘的な視認性を実現しています。アナログのメカニズムが、光学マジックによってデジタルへと姿を変える――。この「機械の遊び心」こそ、アミダが愛される理由に他なりません。

 

現代の信頼性を宿した、機械としての矜持

外見の奇抜さに目を奪われがちですが、時計としての本質、つまり「精度」と「信頼性」においても、本作は妥協を許していません。

心臓部には、スイスの気鋭ムーブメントメーカー、ソプロド社製の「Newton(ニュートン)」をベースとした自動巻きキャリバーを搭載。アミダのエンジニアたちが独自の「ジャンピングアワー・モジュール」を組み込み、毎正時に瞬時に数字が切り替わる快感を演出しています。

特筆すべきは、ケース裏側のサファイアクリスタルから覗く、その美しい景観です。

表側のレトロな佇まいとは対照的に、内部にはコート・ド・ジュネーブ装飾が施された現代的なメカニズムが鎮座しています。約44時間のパワーリザーブを誇り、5気圧の防水性能を備えたこの時計は、もはや繊細なヴィンテージピースとして扱う必要はありません。現代の日常を共に歩む、頼もしき相棒なのです。

 

装いという名の、知的なステートメント

「デジトレンド」を腕に巻くということは、単に時刻を知る手段を手に入れることではありません。それは、時計の歴史が辿った奇妙で美しい分岐点を、自らのスタイルとして表現することに他なりません。

アルカンターラストラップが醸し出すスポーティな軽快さ、あるいは専用のステンレス製ブレスレットが放つ重厚なインダストリアル感。どちらを選んでも、あなたの腕元は、どんなラグジュアリーウォッチをも凌駕するほどの「会話のきっかけ」に満ち溢れることでしょう。

 

AMIDAの「デジトレンド」は、効率や普遍性が支配する現代の時計市場に対する、一つの優雅な反逆です。

70年代の人々が空想した「少し先の未来」を、21世紀の私たちが今の空気感で愉しむ。その贅沢なミスマッチは、単なる道具としての時計を超え、持つ人の感性とユーモアを雄弁に物語ってくれるでしょう。

この唯一無二の存在感は、写真だけでは伝えきれません。ぜひ店頭にて、プリズムの中に浮かぶ「光の数字」を直接ご覧になってみてください。

きっと、あなたの時計観に新しい風が吹き抜けるはずです。

AMIDA

Digitrend

ケースサイズ:幅39.6㎜×長さ39

厚さ:15.6

ケース素材:ステンレススティール

風防:サファイヤクリスタル

ムーブメント:自動巻き Soprod Newton P092

パワーリザーブ:約44時間

防水性:5気圧防水

 

価格

AMIDA デジトレンド スチール エディション
643,500
円税込

AMIDA デジトレンド ゴールド エディション
762,300円税込

AMIDA デジトレンド ブラック エディション
712,800
円税込

※上記価格は2026年5月現在

 

【お問い合わせ先】
日本橋三越本店 本館6階 ウォッチギャラリー/シェルマン TEL: 03-6225-2134
伊勢丹新宿店 本館5階 ウォッチ / AMIDA  TEL: 03-3352-1111 大代表
銀座三越 本館6階 / シェルマン  TEL:03-6228-6911

 

シェルマンオフィシャルサイト

1971年にアンティークショップとして創業したシェルマンは、パテック・フィリップをはじめとしたアンティークウォッチの名品の数々や美術工芸品ともいえるアンティークジュエリーを中心に展開してまいりました。
そして現在は、大手メゾンに属さず時計づくりに励む独立時計師のユニークな作品、独自の信念やこだわりを持って製作される現行ブランドの時計、複雑機構を搭載したクォーツ式のオリジナルウォッチの開発・製作など、アンティークの枠を越え、時代や流行を越えて受け継がれる名品をコンセプトに、幅広いジャンルの作品を取り扱っています